「で、お前、何ができんだ?」
 問われて、自分には何もないことに気がついた。
 両の手を広げて見つめても、そこにあったはずの何かは、指の間からさらさらと……そう、まるで砂漠の砂のように流れてなくなっていた。
 
 ただ一つ抱きしめていたはずの愛すらも
 
 
 空ろになった胸の中を、砂漠を渡る風が吹き抜けていく。
 
 
 
    ★    ☆     ☆    ★
 
 
 
「目閉じてろよ」
 呆然と、ただ見返してくる目は何も映さない。
 そこには何の情熱も無く、それを見てしまうと、これからの行為に興ざめしてしまう。
「客に嘘がバレるだろ」
「なら……あんたは?」
 問い返されても、俺は答えずただ笑った。
 それで納得したのかどうかは知らないが、目を閉じたので口付けた。
 
 
 何も出来ないと、この世の終わりのような声を絞り出すリュドヴィークに、俺は呆れたように肩を竦めた。
 それなら、綺麗な顔立ちなんだから、花でも売ってろよというと、こんな砂漠に花なんか咲くのかと問い返された。
 世慣れてない答がおかしくて、俺は腹を抱えて笑った。
 
 花を売ることの意味を知って、女とだってたいした経験がないと、奴は馬鹿正直に白状した。
 当然のように男とだって経験がある訳じゃない。
 人形みたいな奴の顔を歪ませてめちゃくちゃにしてやりたい衝動が湧いて、「おしえてやるよ」と肩を抱いた。
 ホテル・クーペのベッドはさぞ寝心地がいいことだろう。
 
 
 さすがに高級ホテルのベッドは想像以上で、寝返りを打つたびにギシギシと音を立てる俺のものとは大違いだった。
 行為が終わってふとベッドサイドを見ると、手のひらに治まるサイズのデザートローズが転がっていた。
 砂漠に出れば珍しくもない砂の結晶。形が花のようにも見えて、何も知らない外国人が、宝石を得たような顔をして買っていく。
「……いくらした?」
 さぞふっかけられたろうと思い聞くと、うつぶせて、枕に沈んでいたリュドヴィークはゆっくり顔を上げて頭を振った。
「町を歩いてたら……貰った……ベドウィンの………」
「たいしたジゴロだ。もう貢がせてんのかよ」
「そんなことは…っ」
「そういうことにしとけ。これからお前はそういう人間になるんだ」
 いぶかしむように潜められた眉。それに気を良くした俺は歌うように続けた。
「きっかけはこの砂の花でいい。ここにやってくる白人の金持ちにふっかけろ。自分込みの値段でな」
 奴は情けない顔をして枕を抱いた。
「他にお前に何が出来る? 何もずっと背負えなんて言ってねぇ。一時の幸せを切り売りするだけじゃねぇか」
「そんな資格は持っていない………誰も幸せになんかできなかった」
 絞り出すような声が聞こえて、今度は俺が眉を寄せる番だった。
 
 
 
      ★    ★    ★    ★
 
 
 
本当に連載になっちゃってるよ………<緑野さん

書きたいことがあるんだけど、なんか色々ぐるぐる回っちゃってます。
や、それは本当に単純なことなんですけど、説明したら、ほんの数行で済む話。

色々語ることはあるんですが、とりあえず、この連載(笑)が一区切りついてから。
つか、本当におわるんだろうか………

コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索